赤道上空20kmに浮かぶ通信基地局「HAPS」に対し、直下の途上国連合が国連に提訴しました。次世代通信6Gの覇権を狙う先進国企業と、デジタル主権を主張するグローバルサウスの対立が、ついに「空の国境」で火を吹いています。
2026年1月、技術の進化が国際法の空白地帯を突き、新たな地政学的リスクを顕在化させました。宇宙空間とは異なり、国の主権が及ぶとされる成層圏での永続的な滞空は許されるのか。このニュースは、単なる技術論争を超え、私たちの頭上の権利を巡る南北問題の再燃を告げています。
空の国境線、20km上空で何が起きている?

空飛ぶ基地局が訴えられたって、どういうことですか?
HAPSというソーラー飛行機が原因なんだ。ずっと空にいるからね。
飛行機なら、領空を飛んでもいいんじゃないんですか?
通過するだけならね。でも数ヶ月も居座るとなると話は別だよ。
なるほど。勝手に家の屋根にカメラを置かれた気分ですね。
その通り。しかもそこから6Gの電波を浴びせてくるんだ。
便利だけど、ちょっと怖いかも……。それが提訴の理由?
そう。「デジタル主権の侵害」だと途上国は怒っているんだよ。
今回の提訴は、技術の進歩に国際ルールが追いついていない現状を浮き彫りにしました。主な事実は以下の通りです。
- 赤道直下の途上国連合(グローバルサウス)が、先進国企業のHAPS運用を主権侵害として国連に提訴。
- HAPSは高度20kmの成層圏に常駐し、半径数十kmの範囲に6G通信を提供する「空の基地局」。
- 人工衛星と異なり、成層圏は国際法上「領空」に含まれるが、恒久滞空に関する明確な規定が存在しない。
- 途上国側は、無許可での通信インフラ構築やデータ収集を「新たな植民地主義」と批判している。
議論を読み解くための基礎用語

| 用語 | 解説 |
|---|---|
| HAPS | 高高度基盤ステーションの略称。 成層圏で長期間飛行する無人機。 |
| 成層圏 | 高度10〜50kmの大気層。 気象の影響を受けにくく安定している。 |
| 領空権 | 国家が領土と領海の上空に対して持つ主権。 排他的な権利を行使できる。 |
| グローバルサウス | 南半球を中心とする新興国・途上国の総称。 国際政治での発言力を増す。 |
| デジタル主権 | 国家が自国のデータやインフラを管理する権利。 外資の支配を拒む概念。 |
| 6G | 5Gの次世代通信規格。 超高速・超低遅延で空や海もカバーする。 |
| カーマン・ライン | 高度100kmにある宇宙との境界線。 ここより下は領空とされる。 |
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6G覇権を巡る「空の植民地化」への懸念

そもそも、なぜわざわざ空に基地局を置くんですか?
地上に鉄塔を建てるより安いからだよ。特にインフラがない地域ではね。
衛星じゃダメなんですか? スターリンクとかありますよね。
衛星は遠すぎて遅延があるし、スマホと直接つなぐのが難しいんだ。
じゃあHAPSは、衛星と地上の「いいとこ取り」なんですね。
技術的にはね。でもそれが途上国の頭上で起きているのが問題なんだ。
先進国が勝手にインフラを作って、市場を独占しようとしてる?
そう見えちゃうよね。だから「空の植民地化」なんて呼ばれるんだ。
これまで通信インフラといえば、地上の基地局か、宇宙空間の人工衛星の二択でした。しかし、2020年代半ばの実用化を目指してきた6Gにおいて、HAPSは「超カバレッジ」を実現する切り札とされてきました。地上局の建設が困難な山間部や島嶼部、そして未開発地域を、上空から安価にカバーできるからです。
一方で、この技術は「領空」という物理的な主権の範囲内で運用されます。宇宙空間は「何人にも領有されない」という条約がありますが、成層圏は違います。先進国企業は「接続の自由」や「デジタル・デバイド(情報格差)の解消」を大義名分にしていますが、途上国側からすれば、自国のインフラ整備の主導権を奪われ、安全保障上のリスクを頭上に抱え込むことになるのです。
便利さの裏に潜むデジタル主権の侵害

実は通信だけじゃなく、監視もできるとしたらどう思う?
えっ、20km上空から見られてるってことですか?
高精度のカメラやセンサーを積めば、地上の動きは丸見えだよ。
それは嫌ですね。通信サービスという名目のスパイ活動みたい。
途上国が恐れているのはまさにそこ。データ搾取への警戒感だね。
国民のデータが全部、外国企業に吸い上げられちゃうんですね。
その通り。インフラを握ることは、国の神経系を握るのと同じなんだ。
今回の紛争の核心は、単なる領空侵犯ではなく、国家の「神経系」である通信インフラを他国企業に握られることへの根源的な恐怖です。HAPSは一度飛び立てば数ヶ月から半年間、定点観測のように滞空し続けます。これにより、通信ログ、位置情報、さらには搭載センサーによる地上の画像データなど、膨大なインテリジェンスが収集可能になります。
途上国にとって、これは「デジタル主権」の重大な侵害です。自国民のプライバシーや経済活動のデータが、頭上のプラットフォームを通じて先進国へ流出する構造は、かつての資源収奪型の植民地支配と重なって見えます。便利で安価な通信と引き換えに、国家の自律性を差し出すべきかという、極めて重い問いが突きつけられているのです。
「空の自由」か「国家の主権」か

でも、ネットが使えるようになれば、生活が豊かになる人もいますよね?
その視点も重要だね。教育や医療が届くようになるメリットは大きい。
企業側は「人助け」だと思っているのかもしれませんね。
投資家から見れば、未開拓の巨大市場に一番乗りしたいだけかもよ?
うーん。技術者は「すごい技術ができた!」って喜んでそうだけど。
法学者は頭を抱えているだろうね。「通過」と「滞在」の線引きがないから。
この問題には、立場によって全く異なる正義が存在します。多角的に捉えることで、その複雑さが浮き彫りになります。
- 経済・ビジネスの視点: 先進国企業や投資家にとって、HAPSは地上網敷設のコストを劇的に削減し、ラストワンマイル(未接続地域)の30億人を市場に取り込むための「魔法の杖」です。彼らは効率性と利益、そして市場開拓の論理で動いています。
- 人道・社会の視点: 通信環境がない地域の人々にとって、HAPSは教育、遠隔医療、金融サービスへのアクセスをもたらす希望です。「主権」という抽象的な概念よりも、明日の生活向上を優先する声も、市民の間には存在します。
- 地政学・安全保障の視点: 途上国政府にとって、HAPSは「見えない占領軍」になり得ます。有事の際に通信を遮断されたり、情報を抜かれたりするリスクは、国家存亡に関わります。彼らは安全保障の論理で、厳格な規制を求めています。
成層圏が新たな紛争の火種になる日

もし国連で決着がつかなかったら、どうなると思う?
勝手に飛んでいるHAPSを、撃ち落としたりするんでしょうか?
過激だけどあり得るね。でももっと現実的なのは電波妨害かな。
ジャミングってやつですね。せっかくの技術が台無しだ……。
逆に先進国側が、HAPSを認めない国への投資を引き上げるかもね。
技術と政治のチキンレースですね。着地点はあるんでしょうか?
「通行料」を払うか、データを共有するルールを作るしかないだろうね。
今後の展望は予断を許しません。国連での議論が平行線をたどれば、物理的な実力行使や経済制裁といった報復合戦に発展するリスクがあります。
- 悲観的シナリオ: 途上国側がHAPSに対する撃墜や電波妨害(ジャミング)を法的に正当化し、成層圏が物理的な紛争地帯化する。これに対し、先進国側は経済制裁で対抗し、分断が深まる。
- 協調的シナリオ: 領空通過権と同様に、成層圏の利用にも明確な「使用料」や「データ主権の保護規定」を設ける新条約が締結される。HAPSで得られたデータを当該国と共有し、インフラ運営に現地政府を関与させることで、共存の道を探る。
技術的には、HAPSは6G普及の鍵ですが、政治的な合意形成なしには「空飛ぶ鉄くず」になりかねません。2026年は、空のルールメイキングにおける分水嶺となるでしょう。
まとめ

20km上空のHAPSを巡る紛争は、技術が物理的な国境を無効化しようとする力と、国家が主権を守ろうとする力の衝突です。便利さの代償として「空の主権」をどこまで譲るのか、あるいは守り抜くのか。
私たちが見上げる空には今、目には見えないけれど、極めて強固で政治的な「新しい国境線」が引かれようとしています。技術の進化を享受しつつ、搾取されないための知恵が、グローバルサウスだけでなく私たち全員に問われています。