この記事の要約
- TVAが核融合計画に関心表明書を発行
- 石炭火力跡地で350MW級発電目指す
- 2029年にプロトタイプ建設を予定
2025年12月29日、米国のエネルギー分野において画期的な進展が報じられました。Type One Energyとテネシー川流域開発公社（TVA）は、退役した石炭火力発電所のインフラを再利用し、次世代のエネルギー源として期待されるステララレータ型核融合発電所「Infinity Two」の建設計画を加速させています。
このプロジェクトは、科学技術の最先端である核融合を実用化するだけでなく、既存の化石燃料インフラをクリーンエネルギー拠点へと転換する象徴的な事例です。ウィスコンシン大学マディソン校の研究成果や量子力学・プラズマ物理の知見をベースにしたこの計画は、宇宙で起きている太陽のエネルギー生成プロセスを地上で再現しようとする壮大な試みです。
- Infinity Two：350MW級の商業用パイロットプラント
- Infinity One：2029年までの建設を目指すプロトタイプ
- 建設予定地：テネシー州オークリッジ近郊のBull Run Fossil Plant跡地
概要
2025年9月、TVAはType One Energyに対し、350MWのステララレータ型核融合発電所「Infinity Two」の配備に関する関心表明書（LOI）を発行しました。計画地はテネシー州オークリッジ近くにある退役した石炭火力発電所「Bull Run Fossil Plant」の跡地です。また、両者は共同開発契約を締結しており、2030年代半ばの稼働を目指しています。これに先立ち、プロトタイプである「Infinity One」を2029年までに建設する計画も明らかになっています。
このニュースは、核融合技術が単なる実験室レベルの研究から、実際の電力網（グリッド）への接続を見据えた実用段階へ移行しつつあることを示しています。既存の石炭火力発電所の跡地を利用することで、送電網や用水などのインフラを再活用できる利点があります。つまり、化石燃料から最先端の核融合エネルギーへの「直接的な転換」モデルが提示されたと言え、脱炭素社会に向けた重要なマイルストーンとなることが期待されます。
ステララレータ技術と開発ロードマップ
Type One Energyが採用しているのは、ステララレータ型と呼ばれる核融合炉の方式です。これは、一般的に知られるトカマク型と比較して、プラズマの制御が安定的であり、連続運転に適しているとされる技術です。この複雑な磁場閉じ込め方式の設計には、高度な計算科学や量子力学的な挙動の理解が不可欠です。
- Infinity One（プロトタイプ）：
2029年までの建設を予定しており、技術的な実証を行うための重要なステップです。ここでの運用データが、後の商用炉設計に活かされます。 - Infinity Two（パイロットプラント）：
2035年までの建設、および2030年代半ばの稼働を目指す350MW級の発電所です。これは第1世代のベースロード核融合プラントとして設計されており、実際の電力供給を想定しています。
また、この計画を支える重要な要素技術として、高温超伝導（HTS）マグネットがあります。Type One Energyは、Commonwealth Fusion Systems (CFS) とHTSマグネット技術に関するライセンス契約を締結しており、強力かつ効率的な磁場生成技術を確保しています。
科学的検証と物理的基盤
大規模なインフラプロジェクトには、確固たる科学的裏付けが必要です。Type One Energyは2025年3月、『Journal of Plasma Physics』の特別号において7本の査読付き論文を発表しました。これにより、Infinity Twoの物理的基盤（Design Basis）が科学コミュニティに提示されました。
これらの論文では、ウィスコンシン大学マディソン校のスピンオフ企業としての背景を活かし、同大学のHSX実験装置などで得られたデータが活用されています。特筆すべき点は、単なる理論値だけでなく、実際の発電所運営経験を考慮した「現実的な設計マージン」が含まれていることです。これは、プラズマ物理学や材料化学の観点から、実現可能性が高い設計であることを示唆しています。
既存インフラの再利用と地域経済への影響
建設予定地であるBull Run Fossil Plantは、かつて地域に電力を供給していた石炭火力発電所です。この場所が選ばれたことには大きな戦略的意味があります。
- インフラの有効活用：
送電線、冷却水システム、土地などが既に存在するため、新規建設にかかるコストと時間を大幅に削減できます。 - 地域経済の活性化：
石炭火力の退役に伴う雇用の喪失を、最先端の科学技術プロジェクトによる新規雇用で補うことが期待されます。 - エネルギー転換の象徴：
「汚れたエネルギー」の象徴であった場所が、「究極のクリーンエネルギー」を生み出す場所に変わることは、社会的な受容性を高める上でも重要です。
TVAにとっても、このプロジェクトは脱炭素化目標を達成するための重要な一手となります。核融合は天候に左右されないベースロード電源となり得るため、再生可能エネルギーの変動を補完する役割が期待されています。
まとめ
Type One EnergyとTVAによるInfinity Two計画は、核融合エネルギーの実用化に向けた現実的かつ野心的なステップです。2025年9月の関心表明書（LOI）発行を経て、プロジェクトは具体的な建設フェーズへと進みつつあります。
- 2029年までにプロトタイプ「Infinity One」を建設予定。
- 2030年代半ばに350MW級の「Infinity Two」稼働を目指す。
- ウィスコンシン大学発の科学的知見と、TVAのインフラ運用能力が融合。
宇宙のエネルギー原理を地上で再現する核融合技術が、かつての石炭火力の跡地で花開こうとしています。今後数年間のプロトタイプ建設の進捗と、それに続く実証実験の結果が、人類のエネルギー史を大きく変える可能性があります。
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