2025年12月29日、高市政権は2026年度（令和8年度）予算案において、経済安全保障とサイバーセキュリティ分野へ集中的に資金を投じる方針を固めました。現代の戦争形態とも呼べるサイバー攻撃や情報戦への対応、外交カードとしての技術力強化など、政治主導による強力な政策が示されています。軍事転用も可能な先端技術の管理や重要インフラ防護を含め、これらは次期通常国会における論戦の主要な焦点となる見通しです。

概要

1兆円規模のAI・半導体投資とサプライチェーン強靭化

高市政権が掲げる「強い経済」の実現に向け、最も多額の予算が配分されたのが先端技術分野です。政府は、AI（人工知能）や半導体といった戦略物資の確保を、国家の自律性を左右する最重要課題と位置づけています。

• AI・半導体への集中投資: 産業基盤強化のため、特別会計を用いて1兆2390億円もの資金が投じられます。これは国内生産拠点の整備や研究開発支援に充てられ、国際競争力の維持を目指します。
• 官民連携による17分野の推進: 報道によると、AI・半導体だけでなく、量子技術やロボティクスなど合計17の戦略分野に対し、官民が連携して投資を行う枠組みが強化されます。
• 重要鉱物の確保: 半導体製造に不可欠なレアアースなどの重要鉱物について、サプライチェーンの強靭化を図るための予算措置が講じられます。特定の国への過度な依存を脱却し、安定供給網を構築することが目的です。

これらの施策は、経済的な利益追求だけでなく、有事の際にも国内産業を維持するための「危機管理」としての側面を強く持っています。

「能動的サイバー防御」導入と外交・情報戦への対応

もう一つの柱が、サイバー空間における安全保障の強化です。従来の「専守防衛」的な考え方から一歩踏み込み、攻撃の予兆を捉えて被害を未然に防ぐ能動的サイバー防御（Active Cyber Defense）の導入に向けた体制整備が進められます。

• 国家サイバー統括室の機能強化: 政府機関や重要インフラ事業者に対するサイバー攻撃のリスクを低減するため、司令塔機能を持つ組織の体制が強化されます。
• 偽情報対策への予算増額: 外務省予算において、サイバーセキュリティ強化と合わせて偽情報対策（情報戦対応）に前年度比24.4%増の296億円が計上されました。これは、他国からの影響工作や世論操作に対抗するための能力構築を意図しています。
• グローバルサウスとの連携: 外務省の情報によれば、経済安全保障の観点から、重要鉱物の供給国も多いグローバルサウス諸国との外交関係強化にも予算が重点配分されています。

デジタル庁が一括計上する予算とも連携し、政府機関だけでなく民間事業者も含めた日本全体のレジリエンス（回復力）強化が図られることになります。

まとめ

2026年度予算案は、高市政権が掲げる「危機管理投資」を具体化したものであり、経済と安全保障を不可分なものとして扱う姿勢が鮮明になっています。

• AI・半導体分野への1兆円超の投資により、産業競争力と自律性の確保を目指す。
• 能動的サイバー防御の導入や偽情報対策など、新たな脅威への対抗策を予算化。
• サプライチェーン強靭化やグローバルサウス連携など、外交・経済・安保を連動させた戦略。

今後は、これらの巨額予算が実際にどのように執行され、民間企業の技術開発やセキュリティ体制にどのような効果をもたらすかが注目されます。