2025年12月、建築・建設業界において最も権威あるメディアの一つであるArchitectural Record誌が、恒例となる「Best Software & Technology Products of 2025」を発表しました。今回の選出では、急速に進化するAI技術やクラウドコンピューティングを活用し、設計から施工までのプロセスを革新するソフトウェアが多数選ばれています。

特に注目すべきは、プログラミングや高度なアルゴリズムを背景にした自動化機能の充実です。LiDARスキャンデータの解析や、初期設計段階での環境シミュレーション、さらにはレンダリングの自動アニメーション化など、ITの力が建設現場や設計事務所のワークフローを大きく変えようとしています。本記事では、選出された主要な開発ツールや製品の詳細と、それらが示唆する業界のトレンドについて詳しく解説します。

概要

AI技術とLiDAR活用による「認識」と「表現」の進化

今回選出された製品の中でも、特に技術的な革新性が際立っているのが、物理世界をデジタルデータとして認識・処理する技術と、ビジュアライゼーションを強化する技術です。AI技術の進化は、これまで手作業や高度なプログラミングスキルが必要だった領域を、直感的な操作へと変えつつあります。

• Leica Geosystems「Cyclone 3DR」:
  このソフトウェアは、LiDAR（光検出と測距）技術とAIを組み合わせることで、スキャンデータ処理を飛躍的に効率化しました。特筆すべきは、スキャンされた点群データの中から、街灯や標識といった特定のオブジェクトをAIが自動識別する機能です。これにより、ユーザーは不要なオブジェクトを迅速に削除したり、編集したりすることが可能となり、現況測量からモデリングまでの時間を大幅に短縮できます。
• Chaos「Veras 3.0」:
  ビジュアライゼーションの分野で受賞したこのツールは、AI駆動により静的なレンダリング画像をライブアニメーションへと変換します。SketchUpやRevitといった主要な設計ツールと統合されており、設計者は複雑な設定を行うことなく、クライアントに対して没入感のあるプレゼンテーションを提供できます。静止画から動きを生み出すこの技術は、設計意図を伝えるための新たなスタンダードとなる可能性があります。

これらのツールは、建設・エンジニアリング分野において、現実空間のデータ化（Reality Capture）と、そのデータの視覚的表現（Visualization）の両面で、AI技術が実用段階に達していることを証明しています。

クラウドベースの統合と環境分析のフロントローディング

もう一つの重要なトレンドは、プロジェクトの初期段階（Early-stage design）におけるデータ活用と、クラウドを通じたワークフローの統合です。持続可能な建築が求められる現代において、設計初期からの環境分析は不可欠な要素となっています。

• Autodesk「Forma Site Design」:
  ソフトウェア部門で受賞したこの製品は、初期設計、環境分析、そしてコラボレーションを一つのクラウドプラットフォーム上で統合しました。特筆すべき点は、Esriとの連携による地理空間データの活用です。これにより、設計者は敷地周辺の正確なコンテキストを即座に把握できます。また、AIを用いたエンボディドカーボン分析（建設資材や施工に伴う炭素排出量の試算）などのリアルタイム分析機能を提供しており、設計の早い段階で環境への影響を考慮した意思決定が可能になります。
• Revizto 5.16:
  BIM（ビルディング・インフォメーション・モデリング）の連携強化で評価されたこのツールは、プロジェクト関係者間のコミュニケーションを円滑にします。詳細な仕様は日々アップデートされていますが、複雑化する建設プロジェクトにおいて、異なる開発ツール間でデータをシームレスに共有・管理する能力は、プロジェクトの成功を左右する重要な要素です。

これらの製品は、個々のPCで完結する作業から、クラウド上で常に最新データを共有しながら進める「コネクテッド・コンストラクション」への移行を加速させるものです。特にAutodeskの取り組みは、ITを活用してサステナビリティという社会的課題解決に直結する機能を提供している点で高く評価されています。

建設DXにおける「イノベーション」と「有用性」の融合

Architectural Record誌が選考基準として挙げた「イノベーション、有用性、美学」は、現代の開発ツールに求められる要件を端的に表しています。単に技術的に優れている（イノベーション）だけでなく、現場の実務で即座に役立つ（有用性）ことが、2025年の最優秀製品に共通する特徴です。

従来の建設ソフトウェアは、操作が難解で習得に時間がかかるものが多くありました。しかし、今回選出された製品群は、AI技術がバックグラウンドで複雑な処理を行うことで、ユーザーインターフェースを簡素化し、専門家でなくても高度な分析や処理が行えるよう設計されています。

例えば、Forma Site Designにおけるリアルタイム分析は、従来であれば専門の解析ソフトと数日の計算時間を要していた作業を、設計作業と並行して行えるようにしました。また、Cyclone 3DRによるオブジェクト認識は、点群データ処理という極めて専門的な作業の敷居を下げています。このように、高度なIT技術を「使いやすさ」に変換している点が、今年の受賞製品の大きな特徴と言えるでしょう。

まとめ

Architectural Record誌による2025年の最優秀製品発表は、建設業界がデータ駆動型の産業へと完全に移行しつつあることを示しています。今回のニュースのポイントは以下の通りです。

• AI技術の実用化: 単なる話題性だけでなく、LiDARデータの自動処理やレンダリングのアニメーション化など、実務レベルでAIが不可欠な機能として実装されています。
• 初期設計の高度化: Autodesk Formaのように、設計の初期段階から環境分析や地理空間データを統合し、手戻りのない持続可能な設計プロセスを実現するツールが評価されています。
• 統合と連携: 異なるソフトウェアやデータ形式をクラウド上でつなぎ、BIMワークフロー全体を効率化する動きが加速しています。

今後、建設・建築分野のエンジニアやデザイナーは、これらの新しい開発ツールを使いこなし、クリエイティブな業務に時間を割くことが求められます。2025年以降も、AIとクラウド技術の進化がこの業界をどのように変えていくのか、引き続き注目が集まります。