2025年12月28日、台湾の政治シーンで注目を集める蒋万安（ジャン・ワンアン）台北市長が中国・上海を訪問し、恒例の「台北上海都市フォーラム（双城論壇）」に出席しました。両岸関係において軍事的な緊張や外交上の対立が懸念される中、地方自治体レベルでの実務的な交流が継続されたことは大きな意味を持ちます。本記事では、フォーラムの詳細と両市長の会談内容、そしてこの交流が持つ政策的な意義について解説します。

概要

「テクノロジーが生活を変える」：実務的な協力の深化

今回のフォーラムで特筆すべきは、政治的なスローガンではなく、市民生活に直結する「テクノロジー」をテーマに掲げた点です。両市はこれまでも市政レベルでの交流を続けてきましたが、2025年の会合では以下の分野での協力が具体化しました。

• スマートシティ構想の共有：AIやビッグデータを活用した都市管理についてのノウハウ交換。
• 高度医療分野での連携：高齢化社会に対応するための医療技術やサービスの相互参照。
• 交通インフラの最適化：渋滞解消や公共交通機関の効率化に向けた技術協力。

これらの分野で協力覚書（MOU）に署名する予定であることは、単なる儀礼的な訪問にとどまらず、実利のある関係構築を目指していることを示しています。テクノロジーの活用は、イデオロギーの対立を超えて共通の課題解決に取り組める分野であり、両岸の信頼醸成において有効な手段となっています。

「対話は対立に勝る」：蒋万安市長のメッセージ

蒋万安市長は上海の龔正市長との会談において、非常に重要なメッセージを発信しました。

• 「対話は対立に勝る」：緊張関係にある時こそ、対話を閉ざしてはならないという信念を表明。
• 「実務的な交流の継続」：政治的な障壁があっても、都市間の交流は継続すべきであると主張。
• 「双城好、両岸好（二つの都市が良くなれば、両岸関係も良くなる）」：都市レベルの友好が、より大きな枠組みでの平和につながるという期待。

これに対し、上海の龔正市長も「フォーラムは両市の友情の証であり、台湾海峡を越えた協力のプラットフォームである」と応じ、蒋市長の姿勢を歓迎しました。両市長のやり取りからは、戦争や武力衝突の回避を最優先事項とし、平和的発展を模索する共通の意志が読み取れます。

緊張下における「都市外交」の役割と影響

現在、台湾海峡を巡る情勢は、国際的な外交や軍事バランスの中で非常に繊細な局面にあります。中央政府間（台湾の与党と中国政府）の対話が途絶えている現状において、台北と上海による「都市フォーラム」は、事実上、両岸をつなぐ数少ないパイプラインとなっています。

この交流には以下のような多面的な意義があります。

• 緊張緩和の緩衝材：定期的な人的往来と対話の場があることで、偶発的な衝突や誤解を防ぐ心理的な安全装置として機能します。
• 経済・民生への貢献：政策面での対立があっても、ビジネスや市民生活の利便性を向上させる協力は可能であることを実証しています。
• 政治的なバランス感覚：蒋市長の訪問は、台湾国内の国会（立法院）や世論において様々な議論を呼びますが、過度な対立を避けたい中間層に対して「安定」をアピールする材料となります。

特に、2010年から一度も途切れることなく継続されているという事実は、この枠組みが政治的変動に左右されない強固な基盤を持っていることを証明しており、今後も両岸関係の安定化に向けた重要なツールとして機能していくと考えられます。

まとめ

2025年の台北上海都市フォーラムは、蒋万安市長のリーダーシップのもと、実務的な成果と平和へのメッセージを打ち出す場となりました。

• 継続性の重要性：困難な情勢下でも交流を断絶させない意志が、両市長によって確認されました。
• 技術協力の推進：スマートシティや医療など、市民益に直結する分野での連携が進展しました。
• 平和への展望：「対話」を最優先する姿勢は、地域の安定に向けたポジティブなシグナルとなります。

今後、このフォーラムで結ばれたMOUがどのように具体化され、市民生活に還元されていくのか、また、この都市間の友好ムードが国レベルの政治や外交にどのような影響波及をもたらすのか、引き続き注目していく必要があります。