この記事の要約
- 政府が対日外国投資委員会（日本版CFIUS）の新設方針を決定
- 2026年通常国会での外為法改正と審査体制強化を目指す
- 自民・維新連立合意に基づく経済安全保障政策の一環
2025年12月28日、日本政府は経済安全保障を強化するため、外国企業による日本企業への投資を審査する新たな司令塔組織「対日外国投資委員会（日本版CFIUS）」を新設する方針を固めました。近年、先端技術の海外流出やサプライチェーンの保全が喫緊の課題となる中、政府は2026年の通常国会での外国為替及び外国貿易法（外為法）改正を目指し、法整備に向けた準備を加速させています。今回の決定は、自民・維新の連立政権合意に基づく重要政策の一つであり、激動する国際情勢や戦争リスクを見据えた安全保障体制の抜本的強化を意味します。外交・防衛・経済を横断する包括的な審査体制の構築により、日本の技術優位性と産業基盤を守る姿勢が鮮明となりました。
概要
日本政府は2025年12月、外国企業による対日投資の審査機能を一元化する新組織「対日外国投資委員会（日本版CFIUS）」を創設する方針を確定しました。この新組織には、財務省や経済産業省といった経済官庁に加え、国家安全保障局（NSS）や情報機関も参画し、多角的な視点から審査を行う体制となります。政府は、この新体制を実現するために2026年（令和8年）の通常国会にて外為法の改正を目指すスケジュールを設定しており、関係省庁間での調整を本格化させています。
つまり、これまで各省庁が個別に行っていた投資審査を、より強力な権限を持つ一つの組織に統合し、安全保障の観点から厳格にチェックする仕組みへと転換することを意味します。米国にある対米外国投資委員会（CFIUS）をモデルとしており、経済的な利益だけでなく、軍事転用のリスクや国の安全に関わる重要技術の流出を未然に防ぐことが最大の狙いです。これにより、外国資本による日本の重要インフラや先端技術へのアクセスに対する監視が大幅に強化されることになります。
「日本版CFIUS」創設の背景と審査件数の急増
今回の新組織創設の背景には、近年の対日投資審査件数の急激な増加と、現行体制の限界があります。2019年の外為法改正以降、外国投資家による事前届け出の件数は増加の一途をたどっており、2024年度には約2900件に達しました。この膨大な案件を迅速かつ的確に処理するためには、従来の縦割り行政による対応では効率性に課題が残っていました。
- 審査件数の急増: 年間約2900件（2024年度）に達する事前届け出に対応するため、審査プロセスの効率化が不可欠となっていました。
- 安全保障環境の変化: AIや量子技術、半導体などの先端技術は、民生用だけでなく軍事用としても転用可能な「デュアルユース技術」であり、その管理が国家の存立に関わる問題となっています。
- 現行制度の強化: 日本政府は2025年春に、外国政府への情報提供義務を持つ「特定外国投資家」に対する事前審査制度を導入済みですが、今回の「日本版CFIUS」はこれをさらに組織的に強化する措置となります。
これらの状況を踏まえ、政府は単なる手続きの処理にとどまらず、インテリジェンス（情報機関）の知見を活用した深層的な審査を行う必要性に迫られていました。
政治的合意と経済安全保障政策の推進
本政策の推進には、現在の政治状況が深く関与しています。今回の「日本版CFIUS」創設は、自民党と日本維新の会による連立政権合意書に明記された重要項目の一つです。合意書には「令和8年（2026年）通常国会で対日外国投資委員会（日本版CFIUS）の創設を目指す」と明確に記されており、両党が連携して経済安全保障政策を推し進める姿勢が具現化した形と言えます。
政策決定のプロセスにおいて、以下の点が重要視されています。
- 連立合意の実行: 自民・維新の連立合意に基づき、重要インフラや先端技術への投資規制強化を、政治的なスケジュールに沿って着実に実行に移しています。
- 経済安全保障の深化: 従来の経済政策と安全保障政策の垣根を取り払い、国家戦略として技術流出防止に取り組む姿勢を示しています。
- 法改正への道筋: 2026年の通常国会での法案提出・成立をターゲットに据え、与党内での調整や法案作成作業が加速することになります。
このように、単なる行政手続きの見直しではなく、政権の公約実現という強い政治的意思が働いている点が特徴です。
外交・安全保障への影響と今後の展望
「日本版CFIUS」の創設は、日本の外交および安全保障戦略にも大きな影響を与えます。世界各地で戦争や紛争のリスクが高まる中、経済活動と安全保障は切り離せない関係にあります。特に、同盟国である米国や欧州諸国と足並みを揃え、投資審査の基準や体制を国際水準に引き上げることは、信頼できるサプライチェーンを構築する上で不可欠です。
今後の展望として、以下のポイントが注目されます。
- 情報機関の関与: 新組織にはNSSや情報機関が参加するため、投資家の背後関係や資金源、技術奪取の意図などをより深く分析することが可能になります。これにより、見かけ上の企業活動に隠された安全保障上のリスクを炙り出すことが期待されます。
- 投資環境への影響: 審査の厳格化は安全保障に資する一方で、健全な対日投資を萎縮させないようなバランスが求められます。透明性の高い予見可能なルール作りが、今後の制度設計における焦点となるでしょう。
- 国際連携の強化: 経済的威圧や技術流出に対抗するため、G7をはじめとする同志国との情報共有や連携がさらに深まると予想されます。
まとめ
2025年12月28日に明らかになった「対日外国投資委員会（日本版CFIUS）」の新設方針は、日本の経済安全保障政策における大きな転換点となります。審査件数が2900件に急増する中で、財務省、経産省、NSSなどが一体となり、情報機関も交えて厳格な審査を行う体制への移行は、技術流出防止と国家の安全確保に向けた強い決意の表れです。
- 2026年通常国会での外為法改正を目指し、法整備が進められます。
- 自民・維新連立合意に基づく政治主導の改革であり、重要インフラ防衛が強化されます。
- 軍事転用可能な技術や重要データの保護に向け、国際水準の審査体制が構築されます。
今後、具体的な法案の内容や組織設計の詳細が詰められていく過程で、経済界への影響や運用面の課題についても活発な議論が交わされることが予想されます。
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