この記事の要約
- 南米3カ国がリチウム生産同盟で合意、価格決定権の掌握へ
- 中米の囲い込みに対抗し、資源国主導の供給網再編を狙う
- EV普及期のコスト構造を直撃、脱炭素戦略の修正は必至
2026年、新年早々にエネルギー市場を揺るがすニュースが飛び込んできました。「白い黄金」と呼ばれるリチウム。その埋蔵量で世界シェアの過半数を握るチリ、ボリビア、アルゼンチンの3カ国が、生産調整と価格安定を目的としたカルテル(企業連合)の結成で基本合意しました。
石油におけるOPEC(石油輸出国機構)のリチウム版とも言えるこの動きは、急速に普及が進む電気自動車(EV)産業のアキレス腱を突くものです。これまで先進国や中国が主導してきたサプライチェーンの力学が、資源を持つ国々の「意志」によってひっくり返されようとしています。
南米3カ国が握った「白い黄金」の蛇口

ついに「リチウムOPEC」が動いたね。
OPECって、石油のあれですか?
そう。今回は石油じゃなくリチウムだ。
電池の材料ですよね。何が起きるの?
価格を彼らが決められるようになる。
えっ、勝手に値上げとかできるってこと?
供給量を絞ればね。それが狙いなんだ。
今回の合意は、単なる経済協定を超えた地政学的なゲームチェンジを意味します。主要な事実は以下の通りです。
- 「リチウム・トロイカ」の結成:世界の確認埋蔵量の約6割を占める南米3カ国が、生産量と輸出価格の最低ラインを共同で管理する枠組みで合意。
- 対中・対米交渉力の強化:これまで中国企業や欧米メジャーが個別に結んでいた採掘契約を、国家主導の統一基準で見直す方針。
- 付加価値の囲い込み:単なる原料輸出ではなく、現地でのバッテリー加工・製造への投資を取引条件として義務付ける条項が含まれる可能性。
知っておくべき前提知識

| 用語 | 解説 |
|---|---|
| リチウム・トライアングル | 南米3カ国の国境地帯の総称。 世界の埋蔵量の6割が集中する。 |
| 資源ナショナリズム | 資源は国のものという考え方。 外国資本を排除し管理を強める。 |
| サプライチェーン | 原料調達から販売までの供給網。 EVでは電池が最重要。 |
| グローバル・サウス | 南半球を中心とする新興国。 国際政治での発言力を増している。 |
| LFPバッテリー | リチウム、鉄、リンを使う電池。 安価だがリチウムは必須。 |
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なぜ彼らは「囲い込み」に動いたのか

でも、なぜ今なんですか?
「搾取されたくない」って思いだね。
搾取、ですか。今まで安すぎた?
掘って売るだけじゃ儲からないんだ。
加工して売った方が高いですよね。
そう。でも技術は中国や先進国にある。
それを取り戻そうとしてるんですね。
「技術を寄越せ」という交渉カードだね。
背景にあるのは、グローバル・サウスとしての自信と、長年の不満です。これまでリチウムの採掘は環境負荷が高い割に、産出国の経済への還元は限定的でした。利益の多くは、精製技術を持つ中国や、製品化する欧米・日本の企業が享受してきたのです。
2020年代前半のEVブームでリチウム価格は乱高下しましたが、2026年の今、EVがマジョリティになりつつある中で、彼らは「自分たちが蛇口を握っている」ことを最大限に利用しようとしています。単に資源を売るのではなく、バッテリー産業そのものを南米に誘致し、経済発展の基盤にしようという国家戦略への転換です。
EV価格高騰という避けられない未来

これでEVの値段は下がらなくなる。
えー、安くなるのを待ってたのに!
バッテリーがコストの3割だからね。
スマホとかも高くなりますか?
影響はあるね。あらゆる電池に関わる。
先進国は困りますよね。
脱炭素の計画自体が狂うかもね。
このニュースの核心は、脱炭素コストの構造的な上昇です。これまでは「技術革新でバッテリー価格は下がり続ける」という前提で世界のEVシフトが進められてきました。しかし、原料価格がカルテルによって人為的に高止まりさせられるなら、その前提は崩れます。
- 「100ドル/kWh」の壁:EVがガソリン車と同等の価格になる目安とされるバッテリー単価の達成が遠のきます。
- インフレの長期化:エネルギー転換に伴うコスト増(グリーン・インフレーション)が、リチウム価格の上昇によって加速します。
- 再エネ蓄電への波及:EVだけでなく、太陽光や風力の電力を貯める定置用蓄電池の普及コストも押し上げ、電力インフラ計画にも影を落とします。
覇権を巡る「持てる者」と「買いたい者」

これ、アメリカや中国は怒りますよね。
当然。安全保障の問題になるからね。
戦争とかにはなりませんか?
経済戦争にはなるだろうね。
日本はどうすればいいんでしょう。
リチウムを使わない電池の開発かな。
この問題は、立場によって全く異なる景色が見えます。
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地政学・安全保障の視点:米国や中国にとって、戦略物資を特定地域に握られるのは最大のリスクです。特に中国は精製シェアが高いものの、原料輸入が滞れば産業が止まります。南米への政治的圧力や、アフリカなど代替調達先の争奪戦が激化するでしょう。
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経済・投資家の視点:短期的にはリチウム関連株の高騰が見込まれますが、長期的には需要破壊のリスクがあります。価格が高すぎれば、市場は代替技術へ資金を逃避させます。「高値が自分の首を絞める」というカルテルのジレンマがここにも存在します。
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環境・倫理の視点:南米現地では、リチウム採掘による水資源の枯渇が問題視されています。国有化とカルテル化は、利益を国民に還元する正義として語られますが、一方で、政府が外貨欲しさに環境破壊を加速させる懸念も、現地の環境保護団体からは指摘されています。
技術革新か、あるいは「脱リチウム」か

逆に、これが技術を進化させるかも。
どういうことですか?
「リチウムが高すぎるなら他を使おう」って。
代わりの材料があるんですか?
ナトリウムとかね。塩だよ、塩。
塩! それなら海にいっぱいありますね。
ピンチは発明の母、というわけだ。
今後の展望として、市場は二つの方向に動くでしょう。一つは政治的な妥協です。南米諸国に対し、先進国が技術移転やインフラ投資を行うことで、安定供給を確保する「手打ち」が行われるシナリオです。
もう一つは、「脱リチウム」技術の加速です。レアメタルを使わないナトリウムイオン電池や、使用済みバッテリーから資源を回収するリサイクル技術の実用化が、経済合理性を持って急ピッチで進むはずです。リチウムOPECの誕生は、皮肉にもリチウム依存からの脱却を早めるトリガーになるかもしれません。
資源の呪いを解く鍵は誰が持つ

今回の南米3カ国による「リチウムOPEC」構想は、脱炭素社会の主導権が先進国から資源国(グローバル・サウス)へとシフトしている現実を突きつけました。私たちは「クリーンな未来」が、実は泥臭い資源のパワーゲームの上に成り立っていることを再認識させられます。
EVの価格上昇は一時的な痛みかもしれませんが、長期的には代替技術の進化を促し、より多様で強靭なエネルギー社会を作るきっかけになる可能性もあります。資源を持つ者の強気と、技術を持つ者の知恵。このせめぎ合いが、2026年の世界経済の形を決めていくことになります。