2025年12月29日、日本の通信インフラ業界に衝撃が走りました。NECが、スマートフォンなどの民生向け4Gおよび5G基地局のハードウェア開発から事実上の撤退を決定したことが明らかになりました。この決定は、海外大手ベンダーによる市場支配と、それに伴う収益性の低下という厳しいビジネス環境を反映したものです。

同月には京セラも同様に5G基地局事業からの撤退方針を示しており、日本メーカーによる通信インフラのハードウェア製造は大きな転換点を迎えています。NECは今後、ハードウェアという「モノ」から、vRANなどの「ソフトウェア」や次世代の通信規格である6Gへと、経営資源を大胆にシフトさせる方針です。

概要

撤退の背景：海外勢の寡占と競争激化

NECが今回の決断に至った背景には、構造的な市場環境の変化があります。以下の要因が、ハードウェア事業の継続を困難にさせました。

• 海外3強の市場支配：世界の基地局市場は、Huawei（中国）、Ericsson（スウェーデン）、Nokia（フィンランド）の3社によって約80％のシェアが握られています。
• 開発コストの高騰：5Gおよびその先の技術開発には莫大な投資が必要ですが、シェアが低い状態ではスケールメリットが働かず、投資回収が困難になっています。
• 京セラの同時撤退：NECだけでなく、京セラも2025年12月に同様の理由で5G基地局事業からの撤退を表明しており、日本勢全体が苦戦を強いられています。

このような状況下で、経営陣はハードウェアでの消耗戦を避け、強みを発揮できる領域へリソースを再配分する決断を下しました。

今後の戦略：ソフトウェアと6Gへのシフト

ハードウェア開発からの撤退は、NECが通信事業から手を引くことを意味するわけではありません。むしろ、より成長が見込まれる領域への「選択と集中」が進められます。

• vRAN（仮想化無線アクセスネットワーク）への注力：
  汎用サーバー上で専用のソフトウェアを動作させることで基地局機能を実現する技術です。ハードウェアへの依存度を下げ、ソフトウェアで機能を提供するこのモデルは、通信インフラにおける一種のSaaS的なアプローチであり、柔軟なネットワーク構築を可能にします。
• 6G（第6世代移動通信システム）への投資：
  2030年頃の実用化が見込まれる6Gは、現在の5Gを遥かに凌ぐ超高速・低遅延通信を実現します。ここでは通信制御に高度なAI（人工知能）技術が不可欠となると予想されており、NECはこの次世代技術の覇権争いに向けた研究開発を加速させる方針です。

市場への影響とインフラ国産化の行方

NECと京セラの撤退により、日本国内における通信インフラのハードウェア国産化は大きく後退することになります。

かつては「ものづくり大国」としてハードウェア製造が日本の強みでしたが、通信基地局に関しては完全に海外勢が優位に立つ構図が固まりました。しかし、これは必ずしもネガティブな側面だけではありません。ハードウェアがコモディティ化する一方で、通信の価値はソフトウェアや制御技術、そしてそれらを支えるAIへと移行しています。

また、基地局のオープン化（Open RAN）が進むことで、特定のハードウェアベンダーに依存しないネットワーク構築が可能になりつつあります。この新しいエコシステムの中では、ハードウェアを持たないソフトウェア企業や、革新的な技術を持つスタートアップ企業が参入する余地も広がっています。NECの転換は、こうした業界全体の構造変化を先取りした動きとも言えるでしょう。

まとめ

2025年12月、NECによる5G基地局ハードウェア開発からの撤退決定は、日本の通信産業における大きな転換点となりました。

• 事実上のハードウェア撤退：民生用4G・5G機器の開発を中止し、防衛用を除きハードウェア事業を縮小。
• ソフトウェア中心の事業へ：vRANなどのソフトウェアソリューションや、AI活用が鍵となる6G開発へ経営資源を集中。
• 業界の潮流：京セラの撤退も含め、日本勢はハードウェア製造から、より付加価値の高い技術開発へと軸足を移しています。

今後は、NECが強みを持つソフトウェア技術やネットワーク構築力が、グローバル市場でどれだけの存在感を示せるかが注目されます。